木工塗装のいろいろな仕上げ方法


 木材の塗装仕上げは、色彩の観点から木材の色や材質感を基調にした透明仕上げと、色彩を基調とした仕上げに大別され、また、テスクチュアの面からはマイクロフィニッシュからミラースムーズフィニッシュまで塗膜の厚みによって分類される。さらに、トップコートの光沢の度合いにより艶出し(グロス)仕上げ・半艶消し(セミグロス)仕上げ・艶消し(マット)仕上げに分けられる。
 木材の塗装仕上げは、この3つの観点からそれぞれ選択され、施工される。戦前から戦後の昭和30年代の後半までの日本の木材塗装は漆仕上げのイメージから、ミラースムーズフィニッシュの艶出し仕上げが最も一般的だったが、外国製家具などの影響で、その仕上げ方法も多彩に展開されるようになってきている。現在行われている塗装仕上げの代表的なものを示し、その特徴・塗装工程などを説明する。


木工塗装の仕上げのいろいろとその特徴

白木塗装
仕上げ

 北欧で開発された塗装仕上げで,成育する木材は寒い国だけに針葉樹が多く、主としてマツ材の家具などの仕上げに用いられた。淡色材の場合は、削りたてそのままが非常に清潔感があり、新鮮で美しい。しかし、何も塗装しないでおくと、ごく短期間で手垢などの汚れが付着し、さらにヤケなども加わって汚れてしまう。長期にわたりこの白木感を保つ目的で開発されたのがこの塗装である。
 この仕上げはヒノキ・マツ・ナラ・タモ・セン・シオジ・ブナなどの淡色材に使用されることが多い。

木地色塗装
仕上げ
 木材塗装の最も基本的な塗装で、木材の持つ木理そのものをそのまま表現し、汚れや摩耗、衝撃などから素材を保護するために施される。白木仕上げと違い、濡れ色間が出る。
 仕上げのテスクチュアとしては、マイクロフィニッシュからミラースムーズフィニッシュまで各段階のものが行われる。
一般着色塗装
仕上げ
 木材を着色する目的は木質感をさらに美しく表現すること、安価な木材を高級に見せるなどの意味で行われる。異種材を組み合わせた製品なども全体として統一感のある色調に整えることが出来るので、この塗装仕上げが木材塗装の大部分を占めている。
アンティーク塗装
仕上げ
 米国は建国以来200年程度の歴史しかないが、建国初期に使われた家具類は今では数も少なくなり、非常に高価になっている。これらの複製品をつくろうとして始められたのがアンティーク仕上げである。欧州でも宮殿などで使われた豪華な彫刻を施した王朝風の様式家具があるが、塗装技法の点から見ると、これらの様式家具の技法が米国に渡ったといえる。
 一般にアンティーク塗装といわれるものは、この当時の塗装を再現しようというものではなく、長い期間使い古された家具の表情を再現しようとするものである。使い古された家具には、各種の傷や汚れなどの生活の軌跡があり、これを人為的に再現するのがアンティーク塗装仕上げである。実際の古い家具は、塗装された後に各種の傷や汚れが付くわけだが、この技法は、素材にあらかじめ打ち傷,引っかき傷、虫食い穴、焦げ後などの傷を付けておく。この方法を「ディストレッシング」(破壊)と呼んでいる。また、長年の拭き掃除による摩耗を表現する「ハイライティング」(拭き取りぼかし)、インクやコーヒーのしみ跡などをクレヨンやこよりの束を用いて使い古した感じを表現している。家具の種類によって傷や汚れの種類も異なるので、被塗物の用途に応じた傷や汚れの付け方を考慮する必要がある。

オイルフィニッシュ

 オイルフィニッシュは戦後のデンマークで生まれた塗装法である。日本でも戦前から土足用の木の床などに油(アマニ油)を浸透させ、保護することが行なわれていたが、この技法を工芸の域にまで高めたのがオイルフィニッシュである。チークを用いた家具にこの仕上げを施し、洗練された家具デザインと、しっとりとした美しい仕上がりマッチして世界的に高く評価された。
 工法はチークオイルと呼ばれるアマニ油に合成樹脂、乾燥促進剤、溶剤などを加えた塗料を十分に塗り込み、濡れたままでサンドペーパーをかけて布で拭き取る。この際、サンドペーパーで削られた木の屑がチークオイルに混ざり、道菅の底を若干埋めてくれる。この効果が後に道菅部に汚れを入りにくくしている。この操作を1日1回ずつ3〜4回繰り返す。
 使用する素材はチーク、ウォルナット、ローズウッドなどの濃色材のムク材が適する。突板の場合は0.6mm以上のものでないと接着剤の影響でチークオイルが十分浸透しないためその真価が発揮されない。

オープンポアー
フィニッシュ
 オイルフィニッシュは仕上げに日数がかかり、高級材のムク材や厚突きの突板にしか適さないことから、昭和40年代の塗装の量産時代にはマッチしなかった。そこで考えられたのがオープンポアーフィニッシュである。オープンポアーフィニッシュは道菅部の落ち込んだ薄膜の仕上げで、一見オイルフィニッシュに似ている。
 適用素材はチーク・ウォルナット・ローズウッドなどの濃色材で、あまり道菅の深くないものがよい。
セミオープンポアー
フィニッシュ
 オープンポアーフィニッシュはチークやウォルナットのように濃色材で道菅のそれほど大きくない散孔材に適し、ナラやカバのように比較的道菅の大きい材へ用いると粗い感じに仕上がってしまう。セミオープンポアーフィニッシュは道菅の深い材に塗料を塗り込むことによって半分ほど道菅を埋め、ソフトな感じを得るための仕上げである。
クローズポアー
フィニッシュ
 昭和30年代までの塗装は漆塗りの影響で塗膜の表面を平滑にするミラースムーズフィニッシュが普通であった。また、この当時は塗膜表面をポリッシングコンパウンドで磨き上げる艶出し仕上げが最も一般的であったが、この磨き仕上げにかなりの手間がかかることから、今ではトップコートを艶出し塗料で仕上る方法が行われている。
 表面を平滑にするために道菅に目止めを施し、塗料を十分に塗り込み、中塗の層で完全に平滑になるように研磨してから補色と上塗を施す。

拭き漆仕上げ

 拭き漆仕上げは、生漆を木地に摺り込み、拭き取りを行ないながら工程を重なる方法だが、基本的には木材表面にはほとんど塗膜を残さないマイクロフィニッシュに相当する。生漆そのものがかなり濃く着色されていて、一種のステインクリアーと考えられるが、摺り込みを行なうことによって道菅部分や吸い込みの多い部分は濃色となり、吸い込みの少ない部分は拭き取られて淡色となる。
 家具の仕上げの場合は、ケヤキやカリンなど堅木に使用されるが、これらの材は大小の道菅が混在している。拭き漆技法を繰り返すことによって漆が道菅部に充填され、深い道菅部は濃く、浅い道菅部はやや淡色になり、材質感をよく表現する。特にケヤキの場合は環孔材であるため、大きい道菅は早材の初期の部分に集中し、早材中期の部分に小さい道菅が美しい綾目模様を形成している。これらの綾目模様は素材ではやや気付きにくいが、拭き漆仕上げを行なうと環孔材の深い道菅による年輪模様と年輪間の綾目模様が美しく表現される。
うずくり仕上げ  うずくり仕上げの代表的なものは、和風の桐ダンスの仕上げである。桐は国産材の中で最も気乾比重が低く、材質が軟らかい。軟質材の場合、製品として使用すると傷が付きやすく、塗料の吸い込みムラが激しい。これらの欠点をカバーする方法がうずくり仕上げである。かるかや(ススキ)の根を乾燥して束ね、ひもで固く巻いた用具を「うずくり」というが、この木口面で桐材の表面を擦ると早材部が深く削られ、晩材部が浮き出て凹凸面をつくる。晩材部は早材部に比べて比重も高く硬いので、この部分が凸部になり、物が当たっても比較的傷が付きにくくなる。桐ダンスの表面には、柾目板を継ぎ合わせたものが使用されるので、うずくりを施すと櫛目状の整然とした模様が形成される。うずくり加工が施された素材の上に、水で溶かした白砥の粉液を塗布し、よく擦り込んで拭き上げる。乾燥後、ヤシャブシ(カバノキ科の落葉小高木)の実を適度に煮出した液を刷毛塗し、十分に乾燥させてからイボタロウまたはパラフィンワックスの固形のものを摺り付けて、乾いた布で磨き上げる。
染色塗装
仕上げ
 昭和30年代後半、イタリアを中心とするヨーロッパ諸国で「アニリン塗装」といわれるレッド・ブルー・グリーン・イエローなど彩度の高いビビッドな色彩を木材に採用し、しかも木理が透けて見える塗装が流行した。マツ・ナラ・セン・ブナ・シナなどの淡色材をアニリン染料を用いて染色し、その上から透明塗装を施す仕上げである。
 当時は、従来の木材塗装では見られなかった斬新なもので多様化への幅を広げるものとしてかなり流行した。
半透明塗装
仕上げ
 半透明塗装仕上げは、木材の質感を生かしながらも色彩を主体にした塗装といえる。この塗装が流行し始めたのは、室内のインテリアコーディネートが重視されるようになってからで、ソフトな雰囲気を与え、周囲の色彩とのコーディネートが楽しめる。この塗装仕上げの場合、従来、透明着色仕上げではタブーとされていた白顔料が多く使われることから「パステル調仕上げ」とも呼ばれている。
 適用素材は淡色の環孔材であるホワイトアッシュ・ナラ・タモ・セン・シオジ・ニレなどで散孔材や針葉樹材の例はあまり見かけない。
エナメル
オープンポアー塗装
仕上げ
 エナメルオープンポアーもやはり、昭和30年代の公判に多様化の一環としてイタリアで開発された塗装で、日本の漆塗装によるタモの目はじき塗りがオリジナルと考えられる。シオジ・トネリコ・セン・ニレなどの淡色環孔材を艶消しエナメルで塗りつぶすが、テスクチュアだけはオープンポアーで仕上る。あくまで色彩を主体にした塗装だが、オープンポアーフィニッシュのため木質感を生かすことが出来る。



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